アンドレイ・チカチーロは12年間で50人余りを殺害した旧ソ連の連続殺人犯だ。長編デビューとなるラド・クバタニヤ監督はこの事件を題材に取材を重ね、見応えのあるサイコスリラーを作り上げた。

10年余りの年月を行きつ戻りつする構成に、最初は戸惑うが、それが謎解きのヒント1つ1つを際立たせ、意外な結末に思わず膝を打つ。よく練られている。

時間軸を往復する手法では、昨年の中国ドラマ「ロング・シーズン 長く遠い殺人」が思い浮かぶ。伏線がバランス良く12話に振り分けられた構成が傑作たるゆえんだが、今作もそれに似て緊張感が途切れない。

プロファイリングに合致した容疑者は早い段階で身柄確保されるが、何かがおかしい。この微妙な違和感を監督はうまく醸し出す。捜査主任を、「葡萄畑に帰ろう」(18年)の個性派ニカ・ダバゼが演じ、彫りの深い顔の喜怒哀楽にいつの間にか引き込まれる。

ロシア的な尋問や捜査手法はかなり強引だ。脅し、流血…。それでも真相はなかなか見えない。そして、そっちかい! という結末に、そういえばと布石を次々に思い出す。巧者クバタニヤ監督の次作が見たい。【相原斎】

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